「……なぜヴィオラの?」
その呼び捨てに。

 ランド・スピアーズは、思わずピクリと眉を顰めた。

「……はい。
私はかねてより、王宮騎士になりたいと思っていました。
ですが一匹狼な性質のため、騎士団に所属するのは抵抗がありました。
ところが王太子妃殿下には、まだ専属の騎士がいらっしゃらないと耳にしました。
それなら本領を発揮出来ると思い、私の持てる力の全てを捧げたいと。
王太子殿下の剣となって、殿下の最愛の存在をお守りしたいと思った次第です」

「……なるほど」
理にかなった内容と、王太子への忠誠を感じさせる意向に納得を示すも。

「だがその望みは、俺の一存では決められぬ。
正直、お前ほどの剣士が護衛に就いてくれるなら、心強いところだが。
素性の知れぬ者に、最愛の妃を任せるわけにはいかぬ。
それゆえ、妃を意見を最優先する。
ヴィオラは、どう思う?」
そう伺いを立てるサイフォス。

 事の成り行きを、不安な思いで見守っていたヴィオラだったが……
ランド・スピアーズと接触する絶好のチャンスだ!と、それを狙った。

「私は、この者を信じます。
私に反逆を企てたところで、何の得にもなりませんし。
素性がいいからといって、安心出来るとも限りません。
それなら、より優秀な剣士に護衛を任せたいので……
望みを聞き入れたいと思います」

「そうか。
ならば望みを聞き入れよう」
ヴィオラの意向となれば、反対する気などなく。

 心配ではあったが、その意見も的を得ており。
念のため調べたり、見張りをつければ問題ないかと考えた。

「ランド・スピアーズ。
今よりお前を、王太子妃の護衛騎士に任命する。
しっかり頼むぞ?」

「はい!
命に替えても、お守りいたしますっ」

 会場は祝福の声と拍手に包まれて……
剣術大会は幕を閉じたのだった。