ヴィオラのした事は、不敬罪で罰せられてもおかしくないほどだった。
王太子ともあろう者が、それほどの扱いを受けたとなれば……
激怒するのはもちろんのこと。
たとえベタ惚れしていても、さすがに愛想をつかせたり。
気に入られようとする気も失せるに決まっていた。
 それなのに、どこまで心が広いのかと……
ヴィオラは思わず、心を揺さぶられずにはいられなかった。

 しかし、この男のせいでラピズがいなくなったと思うと……
ぐっと切り替えて、サイフォスの前に歩み寄った。

「殿下のお気持ち、ありがたく頂戴いたします」
そう言ってブルーローズを受け取ろうとすると。

 その重さと棘を危惧して、リモネが「お待ちします」と手を差し出した。
どころがヴィオラは、「いいえ」と首を振り。
「それより、窓を開けて風を通してちょうだい?」
そうにっこり微笑んだ。

 するとヴィオラは、受け取った花束を……
なんとサイフォスの目の前で、窓から捨ててしまったのだった。

「妃殿下!」
宮廷侍女たちが驚きの声をあげて、あまりの侮辱に息を飲んだ。

 そしてヴィオラ自身、悪妃に徹しながらも。
これほどの気持ちを踏み躙った事に、胸が潰れそうになっていた。

 花束を受け取る時に、サポートしてくれたサイフォスの手は……
血が滲むほど傷だらけで。
宮庭に咲いてあるものを、自ら摘み取った事を物語っていたからだ。