お父さんは、ちょっとだけ有名なパティシエだ。
 どこかのホテルで修行して、お母さんと結婚してから自分の店を持って現在に至る。
 今まで、忙しくて作ってくれたことなかったのに、急にどうしたんだろう?
 
「おまえさ、卒業したらこの家出るんだろ? だからじゃね?」

 私と圭ちゃんは、来年の3月に高校を卒業する。
 圭ちゃんは、このままうちに就職することが決まってて……私は、県外の大学へ行く。

 受け取ったケーキをもう一度じっくりと見てみた。
 シンプルな、普通のいちごのホールケーキだ。
 ここに名前を入れたチョコプレートを乗せれば、完全に誕生日ケーキになる。
 いちごと生クリーム以外の飾り付けはないけれど、私のために作ってくれたということが嬉しかった。
 
「お父さん……」

 思わず「えへへ」と笑みがこぼれた。
 
「圭ちゃんも、一緒に食べよ?」

 さすがに5号のケーキを一人で食べる気はない。
 ……いや、頑張れば……いけなくはない……けど……。
 嬉しさで胸がいっぱいで、この気持ちを共有しながら誰かと食べたい気分だった。
 
「サンキュ! 片付け終わったらな!」

 さて、今度こそお店の鍵を閉めようとすると、小学生くらいの男の子が息を切らせて飛び込んできた。
 
「すみませんっ! クリスマスケーキ、まだありますかっ!?」