「すみません、無理言って」
「いいえ。また来てくださいね」
「はい!」

 男の子は、最後には笑顔になって帰っていった。
 うん、少し残念だけれど、笑顔が見られたから良かった。
 
「すまんな、祥子」

 後ろから、お父さんが申し訳なさそうに言った。
 
「ううん。私は、いつでも食べられるし。それよりお父さん、片付けまだでしょ? お店の方は私がやっておくから」
「そうだな……圭樹、行くぞ」
「……はい」

 隣でずっと見てくれていた圭ちゃんも、厨房に戻って行った。

 お父さんがクリスマスイブである誕生日に作ってくれたのは、これが初めてだった。
 でもお客様優先だし、仕方がない。
 だけど今日は寂しいと思う反面、ちょっと誇らしかった。
 お父さんはお代を受け取らなかった。それに加えて、お客様に気を遣わせないように「試作品」と言った。
 お父さんがそんな「職人」だから。
 私も、毎年寂しくても我慢できたんだ。

 お店の扉に鍵をかけながら、そう思った。