お父さんは、仕事中の厳しい感じではなく、穏やかな表情で言った。
 
「おと……店長!」
「どうやら、何か事情がおありのようで」

 男の子に向き直ると、その子は泣きそうな顔で訴える。
 
「ばあちゃんが……。天国へ行く前に、ここのケーキ食べたいって言ってるんだ。本当はダメなんだけど、実物だけでも見せてやろうって」
「そうでしたか……。祥子、急いで箱に入れて」
「は、はい!」

 慌てて5号サイズの箱を組み立てる。
 ケーキを入れている間に、お父さんと男の子の会話が聞こえてきた。
 
「お代は結構です」
「えっ!? いや、ちゃんとお金はあります……!」

 男の子はお金を握りしめていたらしく、しわのできた五千円札を出した。
 
「実はあれ、売り物じゃないんですわ……。私が試作で作ったものでして。なので、お代はいただけません」
「そ、そうですか……じゃあ……」
「お待たせいたしました」
 
 会話が途切れたところで、ちょうど箱に入れ終わり男の子に差し出す。
 男の子は、おずおずとそれを受け取ってくれた。