別荘の日々は過ぎていった。
夏休みが残り少ないので、ラストスパートだと言って、蒼空親子は出掛けることが多くなっていた。
蒼空親子が出掛けている時も、乃々親子と恭親子はゆったり別荘で過ごした。
ふた親子は一緒に食事を取ったり、恭が加減して乃々と卓球をしたり、ビデオを見たりして仲良く過ごした。
乃々が自室のテーブルで犬の絵を描いていると、ノックの音がした。
乃々は犬に色を塗っている最中だったが、中断して、ソファを降りた。
「黒沢さん」
乃々がドアを開けると、恭が2人分のお茶のトレーを持って立っていた。
「どうしたの?」
「僕の部屋に来ない?。」
乃々は犬の絵を置いて、トレーを持った恭に付いて廊下を歩いた。
乃々が恭の部屋に入ると、恭はいつも通り部屋に鍵を降ろした。
持っていたトレーをテーブルに置くと、恭は乃々をソファに座らせた。
「黒沢さん、招待したら僕の家に来てくれる?」
恭が聞いた。
「大型犬が1匹居るよ。車は3台ある。姉さんのと兄さんのと父さんの。家ムダにデカいよ。」
「どこに住んでたっけ?」
「黒沢さんの隣の町。すぐ近くだよ。」
恭が言った。
「庭にぶらんこあるから、乗せてあげる」
恭が下を向いたので、乃々も床を見た。
床に敷いてあるラグは、毛足が短く、触り心地が快適そうだった。
2人はそこでなんとなく黙ってしまった。
「……貰った電話番号をもう覚えた。」
恭が口を開いた。
「黒沢さん、」
「何?」
乃々と恭の目が合う。
「北谷との約束取り下げてくれない?。」
乃々が首を傾げると恭は組んだ足を組み替えた。
「付き合ってるんでしょ。」
恭は咎めるように口を尖らせた。
「僕が先に出会ってたら良かったんだけど。」
まったく腹ただしい、というようなため息をつく。
「どういう事かって言うと」
恭は小さなテーブルに手を付いて、乃々に屈んだ。
額に、目を瞑った恭の唇が軽く触れたので、乃々は目をパチクリした。
「好きだよ。」
目を開けて、恭が言った。
「僕を選んでくれるでしょ?。」