フント伯爵令嬢が笑う。伯爵はうろたえて、自身の娘の肩をつかもうとした。
 シャルロットは、にこりと笑った。顎を引き、前を見据え、フント伯爵令嬢の目をまっすぐに射貫きながら、口を開く。

「わたしは、まだ許可を出していません。いいえ、いいえ、わたしだけなら、そうです、わたしはまだ未熟ですもの。しかし、王太子の婚約者であるわたしを侮ること、それは、アルブレヒト王太子殿下への無礼です」
「え……?」

 シャルロットが言い返すとは思っていなかったのだろう。フント伯爵令嬢がぽかんと口を開ける。

「も、申し訳ありません、シャルロット様。まだ至らぬ娘、よくよく言い聞かせておきますので……」

 そそくさと、娘を引きずるように連れて行ったフント伯爵の背を眺める。
 うまくできただろうか。震える足を叱咤して、シャルロットは何でもないようにもう一度笑顔を浮かべなおした。

「シャルロット」
「お兄さま」