気を利かせた楽団が、テンポの速い曲を奏でだしたから、それはまるでそういう踊りのようにすら見える。
貴族の誰かがほう、とため息をついた。
「まこと、建国王と子犬姫の伝説のようだ」
賛同するように頷くものがちらほらいる。
ここ一か月でひろまった噂──アルブレヒトと、シャルロットが、初代国王と愛犬の生まれ変わりだというそれ。
仲睦まじい次世代の国王夫婦は、この国の繁栄を約束しているように思えたのかもしれない。けれど、今このときにおいて、シャルロットにはそんなこと、関係のないことだ。
──アルブレヒトが大好きだ。
笑っているアルブレヒトに抱き着きたい。
泣いているアルブレヒトを抱きしめたい。
暗い目をして、シャルロットを見つめるアルブレヒトだって、シャロのご主人様であり、シャルロットのこの世で一番大好きなひとだ。
曲の最後、アルブレヒトはもう一度シャルロットを抱きしめた。
シャルロットはアルブレヒトの背に手を回す。それが当然のように。
名残惜しく離れたシャルロットを、アルブレヒトはおなかがすいたような目で見つめた。
最近、アルブレヒトはよくこういう顔をする。
そんな目をしても、シャルロットの細い体には肉などほとんどない。アルブレヒトの空腹が満たされることはないと思う、そうシャルロットがいうと、アルブレヒトは「君が理解できるよう、僕ががんばるよ」と言った。