父の震える口ぶりから、マルティナの命だと思っていたが、意外な言葉がでて面食らった。
「髪を切れと……」
鋏を差し出し、そう言うや、父はおおんと声を上げて泣いた。
マルティナは、父が泣くところを初めて見た。
「なあんだ」
「そうだよな……髪は女の命だと……は、」
マルティナは、父のごつごつした手から鋏を抜き取る。一つに結った髪の付け根をぎゅっとひっぱって、次の瞬間じゃぐん!と音を立てて切り落とした。
マルティナの、金糸のような髪が、ただの毛束となって、マルティナの手に握られている。
はらりと落ちるリボンをつかみとり、軽くなった頭を振って、マルティナは笑った。
「軽くなってちょうどいいわ。父さま、わたくし、騎士になりたいの。これからもっと、鍛えてくださいな」
父が泣き笑いのような顔を浮かべる。
マルティナは、シャルロットの緑の目に映った自分を思い出した。
なんだかとても、いい気分だった。
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