「マルティナ」
「父さま」

 シャルロットとアルブレヒト王太子の婚約披露パーティーという場で、シャルロットに直接手をあげたマルティナは、王城の一室に軟禁されていた。手には包帯がまかれ、今もつんと薬のにおいがする。

「今回のことを、私はかばうことができない」
「はい」

 良くて国外追放だろうか、あの王太子の態度からすれば、極刑もありえるだろう。
 氷のような美貌、氷の王太子──そんな生易しいものではなかった。アレに好かれるシャルロットが哀れですらあった。
 
 この世界がおとぎ話なら、あの王太子は魔王か何かだ。自嘲するようにマルティナが口の端をゆがめると、父侯爵はぐうと喉を鳴らして、赤くした目でマルティナを見下ろした。

「侯爵家の財を、いくらか国に納めるようにと」
「……もうしわけ、ありません」
「違う、マルティナ、それだけではない。……髪を」
「髪?」