「──ごめんなさい」
王太子の婚約者として、してはいけないことはわかっていた。けれど、どうしても、マルティナに謝りたかった。
「なによ……」
「わたしは、あなたにとても不誠実だった。もちろん、あなたがわたしにしたことは、わたしは許してはいけない」
「なら」
「でも」
強く、シャルロットは言葉を切った。
「わたしは、あなたに謝るべきだわ」
そこでようやく、シャルロットは顔を上げた。マルティナを、じっと見たのは初めてだった。
緑色の濃く出た瞳、暴れてほつれ、ぼさぼさになった金髪。まっすぐ見つめたシャルロットの視線は、マルティナの瞳を正面から射貫いた。それに気付いたのだろう。
驚いたように、マルティナはシャルロットを見つめた。
「マルティナ・ティーゼ。ごめんなさい」
周囲のざわめきが、シャルロットの意識を連れ戻した。悪意の波紋が、今度はシャルロットに集まる。当然だ。未来の王妃が自分に危害を加えた貴族に頭を下げるなどあってはならない。
これは自分の招いた結果だ。自分の不誠実さが招いた、罰だ。
ぐっと足に力を入れた、その時。