「離して!アルブレヒトさま!」
「どうして?シャルロット。マルティナ・ティーゼは君を傷つけた。身体に危害をも加えた。だから」
「やめて!」
その続きは、けしてアルブレヒトに口にさせてはいけない言葉だ。
シャルロットが、固く握られたアルブレヒトの手を引きはがそうと力を籠める。その手の甲が、アルブレヒトの爪に引っかかって赤い線を描いた時、アルブレヒトは狼狽したようにマルティナから手を離した。
「あなた……」
「黙って」
無我夢中だった。それでも間に合わなかった。マルティナの左手の骨は完全に砕かれていた。
止まっていた血が流れだしたことで、痛みがはっきりしたのだろう。マルティナは顔をゆがめ、額に脂汗を浮かべながらも、シャルロットをねめつける、
「感謝しろっていうの」
「いいえ」
シャルロットは、息を荒げて短く返した。
そうして、一歩引いて──深く、深く頭を下げた。