「ティーゼ侯爵令嬢。君は、今、シャロに、何をした」

 光のない、うつろな目で、アルブレヒトがマルティナの手首を握っている。みしみしと骨と肉のきしむ音が、シャルロットの鼓膜を震わせた。

「アルブレヒト殿下、離してくださいませ!」
「それはできない。僕の大切なシャロに手をあげるような輩を野放しにすることはない」

 恐ろしいほど、底冷えのする声だった。氷なんて生易しいものではない、明確な、鈍色の殺意が確かにそこにあった。子供でも容赦はしないだろう。事実、彼女の手首はすでにおかしな方向に曲がっていた。

 だが、マルティナはひるまなかった。いいや、震えてはいた。
 けれど、それよりずっと、シャルロットへの怒りのほうが大きいようだった。

「わたくし、あなたが嫌いよ!シャルロット・シャロ・ヒュントヘン!」

 燃えるような眼差しが、シャルロットを真っ向から射貫く。シャルロットは、動くことができなかった。