シャルロットの頬を平手で打ったのは、マルティナ・ティーゼだった。

 アルブレヒトと別れた後、当然目の前に現れたマルティナ。
 いつものように嫌味を言われるのかと、嬉しかった気持ちがしぼんでいって……。シャルロットは、微笑みの形に目を細めて、ごきげんよう、と、挨拶をした。
 その瞬間、ギリ、と歯の擦れる音がして、ついで、シャルロットの頬を熱が打った。

「……え、」

 呆然と頬を抑えるシャルロットが、マルティナに視線を向ける。
 彼女はいつになく、否、記憶にあるどの彼女よりも顔を赤らめて、肩で息をしていた──怒っている。とても、彼女は怒っていた。

 茫然と立ちすくむシャルロットに、こちらを睨み据えたままの彼女は、もう一度シャルロットに向かってその手を振り上げた。
 マルティナは、手を思い切りシャルロットの頬に向かって打ち据えんとしていた──しかし、その手がシャルロットに届くことはなかった。