危ないところだった。子供だって、こちらが一歩間違えれば足元を掬えるのだ。
 アルブレヒトに助けを求めてはいけないと、シャルロットは決めた。
ならば、自分が侮られぬよう、しっかりしなくてはいけない。

 腹に力を込めて、口角を上げたシャルロットは、こちらをねめつけるマルティナが持ち上げたものを、とっさに知覚することができなかった。

 ぱしゃん。その音の後に、冷めた紅茶が、生温い雫を落としてシャルロットの髪を濡らした。
 パタパタと落ちた一滴一滴が、シャルロットの着ていたドレスに染みを作る。

「ごめんあそばせ。シャルロット様。手が滑ってしまったの。許してくださるわよね?」

 悲鳴をあげる令嬢たちを無視して、マルティナがシャルロットを睨むように見た。
 もちろんよ。
 か細い声で、シャルロットは言った。……それしか言えなかった。
 どうして、シャルロットはこんな目にあっているのだろう。しゃくり上げそうな声を無理やり押さえつけて、咳をすることでごまかした感情は、もう限界だった。

あと少しの刺激で、ふくれた感情がシャルロットの体を巻き込んで破裂してしまいそうだった。
 目が熱い。すう、と目を閉じ、息を吸って侍女たちを振り返った。

「皆さま。冷えてしまうから、今日はおひらきにしましょう」