マルティナと呼ばれた少女は、国の守りの要である騎士団長の娘だ。無下にはできない。
 シャルロットをせせら笑って挑むような眼差しを避けるように、笑ったふりで目を細めた。

「いいえ、私が至らなかったの。教えてくれるお友達がいて、わたしは幸せだわ」
「シャルロット様…なんてお優しいの!」
「さすが未来の王妃様ですわ」
 
 幸せでいないといけない。その想いは、天真爛漫だった幼いシャルロットを少しずつ蝕んでいた。
 お気に入りの髪飾りがなくなった。
 ──王宮の裏庭で、土にまみれて見つかった。
 アルブレヒトからもらった花を、ぶつかった拍子、「うっかり」で踏みにじられた。
 ──昨日まで話していた令嬢たちが、シャルロットを困らせるゲームをしていたのだと知った。

 アルブレヒトの婚約者という地位が、妬ましいのかもしれない。あるいは、シャルロットの噂を信じているのか。

 シャルロットが6歳になるころ、シャルロットの知らない女官が、シャルロットにわざと違う道を教えた。
 その結果、シャルロットは手すりの修理中だった階段から落ちるところを、ぎりぎりでアルブレヒトに助けられることになった。