次の満月がくれば12歳になるシャルロットは、悪意がどれだけ巧妙に隠されてひとの体に収まるかを、悲しいくらいに理解していた。
 理解せざるをえなかった。

「これは……フント地方の茶葉かしら。今年は雪解けが早かったと聞いたの。春摘みのダージリンをこの季節にいただけるのはうれしいわ」

 そう言ってシャルロットが微笑むと、シャルロットを探るように見つめていた令嬢がにっこりと笑い返した。

「さすがですわ、シャルロット様。我が家の領地のこともご存知なんて」
「広い目をしていらっしゃるわ」
「ええ、そうね、なにせ王太子殿下の婚約者ですもの」

 次々とシャルロットを褒めちぎる声がする。シャルロットはほほえんで、ありがとう、と柔らかく言った。

「あら、冬の終わりに飲む春摘みのダージリンなんて、それはもう春摘みではないのではなくて?」

 和気藹々とした会話に、そんな棘だらけの言葉を放り込んだのは、シャルロットの向かいに座った少女だった。
 輝くばかりの金髪をくるくると巻いて、赤いリボンで飾っている。緑の目が、挑発的にシャルロットを見つめていた。

 シャルロットは、自身の顔を映した紅茶の水面に視線を落とす。
 テーブルクロスに隠した手で、今にも怒り狂って暴れだしそうな侍女たちを制す。

「……そうね、ごめんなさい。ひとつ学びになりました。ありがとう、マルティナ・ティーゼ」
「マルティナ様、言い過ぎですわ!」
「なによ、あなた方も思ったのではなくて?」