「では、どうして王妃様のお歌だけ?」
「あれは、アルブレヒトさまが教えてくれたの」
「……ああ……道理で……」
「また、お義母さまとお歌を歌えるかしら」
「ええ、もちろんです。王妃様はあんなにおひいさまを気に入っておられますからね。シャルロット様が望めばきっと」
「……ありがとう、アンナ」

 ──本当に?
 アンナが自室の扉を開けるために後ろを向いた時、目を足元に向けて、シャルロットは思った。黄色いドレスが、差し込んだ夕焼けで金色に染まる。

 かつて、ずっと昔に一度見た王妃は、シャロのことをけして見ようとしなかった。
 そして、王妃の部屋にあったぬいぐるみ……多くの動物がいたのに、犬だけは一つたりともなかった。
 これは、気付いてはいけないことだ。あの部屋に入った瞬間、そう理解した。


 ──幸せなんだよ。本当だよ。

 シャルロットは、頬に手を当てた。くいっと持ち上げて、目を細める。

 ──幸せにならないとだめなんだよ。

 上手に、幸せになりたかった。
 今日も、アルブレヒトは来てくれる。シャルロットが本当の意味で息を吸えるのは、アルブレヒトの腕の中だけだった。そんなの、もうごまかせないくらい、わかっていることだった。

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