その日は日が暮れるまで王妃といっしょに歌を歌った。それは童謡だったり、適当な歌詞で歌う鼻歌だったりしたけれど、そのどれもが不安定な音色で、言ってしまえば調子っぱずれだった。

「おひいさまにも苦手なことがあるんですねえ、お歌を歌うのは、王妃さまもアルブレヒトさまもその、ええと……。でも、おひいさまも苦手なら、今日歌った歌は難しいのかもしれませんね」

 アンナが言いづらそうに言った後、あわてて付け足した。

「ああいう、お歌ではなかったのかしら」

 きょとんと首を傾げるシャルロットに、アンナは肩をはねさせた。

「おひいさま、まさか知らない歌を?」
「ううん、お義母さまが最初に歌っていた歌は知っていたわ。そのほかは……ごめんなさい、お姉さまが歌っていない歌だから、よく知らなかったの」

 まあ。アンナは驚いたように口を開けた。
 シャルロット自身、自覚もなく、誰からも聞いたことのないことだったが、シャルロットは、ヒュントヘン公爵夫妻が時を見て自慢しようと思っていたほどの歌の名手だった。
 だから、知らない歌をとっさに合わせて歌うことくらい、息をするようにできたのだ。