竜と戦い、災厄の獣と戦い、あるいは大戦を終わらせるなど、種々ある冒険譚の終わりにたどり着いた場所にこの国を建ててから死ぬまでずっと、初代国王を何くれとなく支えた愛犬は、神の力を持っていたという。その犬は寿命が尽きて死んだおりに、この土地一帯に豊かな恵みを与えた。

 しかし、喜びよりもずっと大きな喪失に嘆き悲しむ王を神が哀れに思ったのか、その時まばゆい光が天から降り注ぎ、犬は人として生まれ変わった。
 その王と犬の子孫がアインヴォルフ国の王家である。だからこそ、犬はこの国ではもっとも愛すべき聖なる獣なのだ。

 ヒュントヘン公爵家の子犬姫、そう呼ばれるほど犬らしい赤ん坊の誕生は、まさしくこのアインヴォルフ国では慶事中の慶事であったのである。
 
 さて、それから5年。ヒュントヘン公爵家の子犬姫たるシャルロット・シャロ・ヒュントヘンの5歳の誕生日の前日から、この物語は始まる。