ラルヴァ―ナ大陸の、実に半分を占める大国アインヴォルフ王国の中でも、山脈の麓にある広大な領地を持つ大貴族、ヒュントヘン公爵家に女児が生まれたのは、今から5年前のことだ。
 産まれたときに「あん!」と鳴き、嗅覚は鋭く、吸い込まれるほど大きな丸いエメラルドグリーンの目がきらめいて周囲の人間を魅了する。ふんわりした柔らかい髪は、まるでシー・ズーのような、黒と茶色、そして白銀が混じりあった不思議な色彩を持っている。
 やがて、誰からともなく、年若い公爵家の小柄な姫君のことを「子犬姫」と呼ぶようになった。
 
 これはアインヴォルフ国において最高の賛辞である。なぜなら、アインヴォルフ国の建国者である初代国王の相棒は、そして、この国を守護する神が使わしたという聖獣は犬であったからだ。