「シャロ……」
ヒュントヘン公爵に抱かれて眠ったシャルロットが、書類の整理の終わって一息ついたばかりのアルブレヒトの執務室へ入ってきたとき、アルブレヒトは一瞬、歓喜した。
だが、それをすぐに打ち払って、こぶしを握り締めた。
ぐったりと目を閉じるシャルロットの、青くなった顔。血の気がないから、彼女の美しさも相まってまるで本物のビスクドールに見えた。
シャルロットは──いいや、シャロは、鳴き声以外の言葉を持たなかった。
けれど、シャロが死ぬ間際にアルブレヒトに何か伝えようとしていたことはわかっていた。
緑の宝石のような目が、どんどん翳って死んでいく
同時に死にたかった。けれどアルブレヒトにはそれが許されなかった。
手を縛り付けられ、死ぬなと懇願され、だからアルブレヒトは心をどこかに放ってしまった。
だから、こんなにかわいそうなシャルロットを見て喜ぶ自分は、壊れたうえで、もうきっと元通りになることはないのだろう。8年前のあの時、アルブレヒトの心は完全に砕けたのだ。
人として持つべき倫理観をどこかに置き去りにして──シャロ……シャルロットだけが無事ならいいと思い込む。
その実、シャルロットを苦しめて──シャルロットの中身を、自身が占めていることがなによりうれしかった。
「シャロ、ごめんね……」