シャルロットが産まれたとき、ヴィルヘルムはうれしかった。
 すぐにでも、アルブレヒトに会わせてやりたかった。 

 それを制止したのは、母だった。その時ほどヴィルヘルムがあれたことはない。
 アルブレヒトを救えるのはシャロだけだと知っているのに、どうして、と。
 母は泣きながら言った。
 ──アルブレヒトは、シャルロットを殺してしまう。
 その時は、そんなことがあるはずないと食って掛かったヴィルヘルムだが。今になって思うと、母が正しかったのだ。
 母の兄──王が、亡くした愛犬の代わりに慰めになれば、と恥知らずな貴族に連れてこられた令嬢や貴婦人たちを、最下層の劣悪な地下牢に投獄したのは、それからすぐのことだった。
 愛犬を失った王族は、精神の均衡を失ってしまう。母も、首から下げている愛犬の遺骨がなければ、正気ではおられないのだといった。
 ヴィルヘルムは一度、あきらめた。けれど──けれど、信じていた。親友を。そして、今は妹になった、愛すべきヴィルヘルムの師を。