ヴィルヘルムの頭はそう叫ぶのに、根が生えたようにヴィルヘルムの足は動かない。恐怖でのどが引きつって、かすれた声しか出やしない。

 守らないといけない、だって、ヒュントヘンは、愛犬の末裔だ──王族を守るのが、しめ、い、で。

 ヴィルヘルムがかくんと膝を折る。力が抜けた。かろうじて動かせる腕で、アルブレヒトのほうへ這うけれど、間に合うわけがなかった。

「……ァ……ッ!」

 声を出せ、立て、前に出て盾になるのだ!なんども自分に言い聞かせる。それでもヴィルヘルムのこわばった体は動かない。

 どうして!どうして!どうして!
 アルブレヒトが倒れる。押し倒されたのだ。情報は入ってくるのに、体が動かない。
 特徴のない顔をした、衛兵の服を着た男。その男が手にした白銀が、陽光にきらめいて、アルブレヒトに迫る──刹那。