人の言葉をわかっているのか、すでに王としての責務を放棄して久しい現王の代わりに重圧を背負う、王太子としてのアルブレヒトに静かに寄り添っているのもよく見かける。

 ヴィルヘルムは、アルブレヒトの心を守る「愛犬」──シャロに敬意をもっていた。
 ヒュントヘン公爵家は、そもそもが建国王の愛犬の末裔だ。さらに、ヴィルヘルムには半分アルブレヒトと同じ血が入っている。

 だからこそ、王家と愛犬の関係をなにより尊いものだと思っていた。
 ただ、このころは、それだけだった。
 「愛犬」を殺された王族がどうなるのか、知識として知ってはいても、理解はしていなかったのだ。

「さ、アル。シャロ様。行こう。父上のお説教が待ってるぞ。シャロ様は苺を食べて待っていましょうね」
「まったく……」

 ──そんな会話を不意に途切れさせたものは、まっすぐにアルブレヒトに飛んできたナイフだった。

「……ッ」
「あ……る」

 アルブレヒトの頬をナイフがかすめる。ヴィルヘルムの前にぱっと赤い花が散った。いいや──いいや!花なんかではない、あれは血だ!