執務室の隣の部屋に用意された部屋では、母が待っていた。疲れたようにソファに腰を下ろすヴィルヘルムに、母の隣に座った父が、おもむろに声をかけた。
「大体は、わかっていると思うが」
「ええ……。そうですね。僕は人だし、「愛犬」という立場にはないですから、本当に理解しているとは言えませんが」
ヴィルヘルムはくっと喉を鳴らした。無理やりに笑って、けれど失敗したような表情をしたヴィルヘルムを、父も母も、笑いはしなかった。
「それでも僕だって、ヒュントヘンの直系です。シャルロットが産まれたとき、あの子がシャロ様だと気付いておりました」
シャロ様。なつかしい響きがヴィルヘルムの舌にふれる。
あの時10歳の少年だったヴィルヘルムは、今よりもずっと無力だった。
「アル!シャロ様!どこにいらっしゃるんです!今すぐ出てこないとケーキの苺は僕の胃に入りますよ」