「どういうことですか、父上。シャルロットは王妃殿下より講義を受けているはずでは……」
バン、と、ヴィルヘルムが机に手をついて身を乗り出す。父公爵の腕に抱かれた、青白い顔で眠っている妹を見つめ、眉間にぎゅうとしわを寄せる。
「ヴィルヘルム、それについては別室で話す。今は……」
ヒュントヘン公爵が、シャルロットを急遽用意された簡易ベッドにそっと横たえた。
食い入るようにシャルロットを見つめるアルブレヒトの顔からは、表情という表情が消えうせ、体の横で握られたこぶしからは血がしたたり落ちている。
父公爵の視線を追って、それに気づいたヴィルヘルムは、シャルロットを起こさぬように、しかし、悔しさに唇をかみしめ、ただわずかに、絞った声で「はい」とこたえた。
たしかに、ヴィルヘルムには今のシャルロットにしてやれることを持ちえない。
愛しい家族なのに、何もできない。
それが、ただただひたすらに悔しかった。