「わたくしのかわいいシャルロット、泣かないで。お母さまとお父さまが、アルブレヒト殿下のもとへ──ご主人様のもとへ、つれていってあげましょうね」
「……ッ、ぁ……」
「無理をしなくていいよ。シャルロット、お前は私たちの宝物なんだ。それは、ずっとずっとかわらない」

 そっと、公爵がシャルロットの目を覆う。そうすると、いくばくかシャルロットの呼吸が落ち着いて、やがてすうすうという寝息に変わった。

「こんな日が来ると、わかっていたわ。だって、シャルロットは愛犬だったのですものね」

 エリーザベトは、首にかけた革紐に括りつけられた、小さな小瓶をそっと撫でた。エリーザベトは、王女だった。アインヴォルフ王家の直系──そして、アルブレヒトの叔母だった。だから、だれよりも王族と愛犬とのつながりを理解していた。

「会いに行けないわけじゃないわ。だから、あなた……泣かないで。ほんの少し、住む場所が遠くなるだけだもの」
「……そうだな。少し早く、お嫁に行くだけだものな……」