仕事だけをする、心のない人形。言い方は悪いが本当にそうだった。


「難儀だよなあ」
「何がだ」
「いいや」

 8年前のあの日、将来の学友として城に上がっていたヴィルヘルムは、決定的な瞬間を見ていた。
 ヴィルヘルムが自分の命より大切にしていた愛犬──シャロが、殺されたところを。

 あのとき、ヴィルヘルムは足がすくんでアルブレヒトを庇えなかった。シャロがかばったのだ。小さな体で、大きく跳躍して、アルブレヒトの心臓に迫る刃を全身で受け止めた。
 抜け殻だったアルブレヒトを救ったのは父ではない。

 本当に、アルブレヒトの命を蘇らせたのは、シャルロットだ。
 それを言い切ることができた。なぜならこれでもヴィルヘルムはヒュントヘンの直系だ。
 この血が、ヴィルヘルムのかわいい妹がシャロなのだと言い切っていた。

「アル、シャルロットを幸せにしてくれよな」
「断言したい」
「しろよ」

 だから、ヴィルヘルムが幸せにできないかもしれないと不安がる気持ちも、多少はわかるのだ。
 難儀だよなあ。ヴィルヘルムはもう一度、今度は囁くように口にした。