アルブレヒト・アインヴォルフ王太子は変わり者だ、というのは、アインヴォルフ王国の貴族の中では暗黙の了解に似た事実だった。

 王族が常にそばに控えさせている愛犬というものを持たず、護衛も数人だけ。
 学友であるヴィルヘルム・ヴィオラ・ヒュントヘンとはそこそこに会話をするが、執務以外ではごく無口。

 しかし、濡れたような黒髪や、美しい青い目をはめ込んだ端正な顔だちに、令嬢からの秋波は絶えない。なにせこの王太子ときたら幼少の頃から美しいだとか麗しいだとかそういった言葉がよく似合う顔立ちをしている。

 それが成長してからは整った面立ちをかなぐり捨てるかのような冷淡な態度を崩さない青年ときたものだ。

 がちがちに固まった表情筋をもみほぐそうとして手刀を落とされて以来、警戒が強くなって同じことができなくなっていた。