「ええ、よろこんで」

 舌足らずな声が気取ってつげた承諾に、アルブレヒトは歓喜し、ヒュントヘン公爵はうなだれた。
 愛犬を求める王家の人間の、その執着心を思ってだろうか。

 かわいそうに、これからシャルロットは二度とアルブレヒトの他を選べない。選択を縛り、視線を固定して、アルブレヒトだけ愛するように──他の誰でもなく、アルブレヒトがそう仕向けるのだから。

「私的な場でこんなことをしてすまない。しかし逸る心を抑えきれなかったんだ」

 アルブレヒトから発せられた、シャルロットこそが愛犬という言葉、ヒュントヘン公爵との意味深な会話。それらを聞きたくてウズウズしているだろう、招待客に視線を向ける。
 目を細め、口の端をあげる。しばらく動かしていなかった筋肉がぴり、と痺れる。ああ、こんなにも自分は死んでいたのだな、なんてどこか遠くで思った。

 広がるざわめきは、アルブレヒトの笑顔についてだろう。そりゃあそうだ。アルブレヒトはこの8年、シャルロットに出会うまで、一瞬たりとも笑ったことがなかったのだから。
 すい、と強いるように、視線を招待客に向ける。なりふりなんて構っていられない。早くシャルロットを自分のものなのだと周知したかった。

 誰かがシャルロットをかすめ取ってしまわぬように。

「ご婚約、おめでとうございます、殿下」

 最初に口にしたのは、ティーゼ侯爵だった。目を白黒させた娘をも促し、アルブレヒトに拍手を送る。