涙があふれる。「ご主人様」の肩口に吸い込まれた塩水は、それでもあとからあとからあふれる雫のせいでぽたぽたと、さらに色の濃い場所を大きくしていく。
 探していたのだ。もう一度、会いたかったから。

 約束したから。一方的な約束を、勝手に取り付けていなくなった「わたし」が、それでもこのよすがをもう一度手繰り寄せられた。

「シャロ……やはり、君なんだね」

 どこか安堵したような声が降る。
 ふいに、わんわん泣きじゃくるシャルロットを抱いたまま、「ご主人様」が立ち上がった。

「王太子殿下、シャルロットに、会ったことがあったのでしょうか」

 一言一言区切るように尋ねるのは、父の声だった。……王太子、は聞きなれないけれど、でんか、には聞き覚えがあった。昔、ご主人様はそう呼ばれていたから。
 こわばった父の声を振り返ろうとしたシャルロットの頭をそっと撫でて制すと、「ご主人様」はシャルロットに対するものとは全然違う温度の声で答えた。

「シャルロットは、私の「愛犬」だ。公爵。わかっていたからこそ、ミドルネームにシャロとつけたのでは?」
「…………」