しかし自身と唇を合わせて顔を赤くした花嫁を見れば、たしかに、花婿の衣装など忘れてしまうだろうなとも思う。だってアルブレヒトがそうなのだ。

 銀の髪に、少しだけ入ったこげ茶は複雑に結い上げられ、ヴェールにはたくさんの薔薇と、王妃の証たるティアラが配置に細心の注意を払って飾られている。   
 銀の睫毛に縁どられたエメラルドグリーンの目は、照れくさそうに細まって、薔薇のように染まった頬が愛らしい。

 華奢で小さな体は、けれど背を伸ばして立つだけで、周囲を清廉な空気に一新するような威力めいた美しさを放っている。

 シャルロットの準備をした侍女たちは、完成したと同時に、そろって建国王と子犬姫に祈りを捧げ、滂沱の涙を流した。
 このために生きてきました!とシャルロットを困惑させるほどだったらしい。

「国王陛下!おめでとうございます!」
「王妃殿下、万歳!」

 王城の中にある教会で式を終え、バルコニーへと腕を組んで歩いた二人は、微笑んで手を振る。
 祝福された新郎新婦を、誰かが呼ぶ。雪解けの国王夫妻、春の国王夫妻、と。
 氷の王太子にからめた言葉だろう。だが、もはやそこに悪意はなかった。

 シャルロットは、手に持つ白薔薇のブーケをそっと放った。
 花嫁のブーケを得たものには幸福が訪れる、という言葉を覚えていたのかもしれない。
 風に乗って、ふわりと放物線を描くように飛んだそれを、国民らはほほえまし気に、あるいは熱意を込めて見つめる。

 ──瞬間、ものすごい勢いで疾走し、高く飛び上がってそのブーケをつかみ取った人影があった。

 その女騎士は、尻尾がついていたら振り回しているくらいに頬を紅潮させてシャルロットを見ている。

「シャルロット様!見てください!とりましたよ!」

 などという声が聞こえてきそうだ。
 シャルロットが笑った。