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「新郎、あなたは、建国王と子犬姫のように、互いを支え、愛し合うことを誓いますか」
「誓います」
「新婦、あなたは、建国王と子犬姫のように、互いを支え、愛し合うことを誓いますか」
「誓います」
「それでは、誓いのキスを」

 新国王の戴冠から一年後の今日、この国でもっとも煌びやかな夫婦が誕生した──すなわち、結婚式である。

 つまりは、先の王の喪が明けてからも一年、その間自粛していた祝い事によって、その分の資金はそっくり結婚式の費用へと変わり、全ての民へ小麦や肉といった褒賞を配ってなお式をきらびやかなものへと変えるだけの余裕すらあった。

 花嫁の後ろについてくる純白のトレーンは、それこそ教会を一周できるのではないかと噂になるほど長く、まさしくこの世の春とうたうべき国の権威を示している。

 ハスキー、マルチーズ、シー・ズー。はたまたウルフドッグ。あまたの犬たちによって咥えて運ばれる長いトレーンには、純白の薔薇「シャルロット」の花びらがまぶされており、透き通るように麗しい花嫁にふさわしく、見ているものに華やかな印象を抱かせるものだった。

 また、いつも黒を好む新郎は、今日は花嫁とそろいの白い礼服を纏って、その青い目と、濡れたような黒髪でもって、整った顔立ちをきわだたせる。

 とはいえ、ヒュントヘン家の一族にはもちろん、母たる王太后にすら直前まで忘れられていた彼の衣装をそろえたのは式直前のたった一か月。……仕立てた人間にはかなり大変な仕事だっただろう。

 結婚式の主役は花嫁!花婿は付け合わせのパセリよ!と言い切ってはばからない女性陣の強さとうっかりを垣間見た瞬間だった。
 まさか式の手配をした大臣の一人に言われるまで誰も気づかないとは思わなかったが。