「あなたたち、いい加減にしなさい。ほら、シャルロット、お母様と手をつなぎましょうね」

 母が言う。抱っこされるよりずっと大人だわ、と思って、シャルロットは母に顔を向け──そして、会場のある一点に視線を留めた。

 涼し気な、鴉のように黒い、つややかな髪のひと──青い目は透けるように、けれど深く深く、おぼれてしまいそうな色をして、どうしてか、シャルロットを食い入るように見つめていた。

 見開かれた目は、間違いなくシャルロットに向けられている。
 冷たい色の瞳が、シャルロットを追い詰めるような熱を帯びて。そうして、シャルロットはその唇が、たったひとこと、つぶやくのを確かに見た。
 
 ──シャロ。
 
 瞬間。
 はじけるような──頭が──胸が──いいや、もっとずっとずっと奥の何かがはじける音を、シャルロットは確かに聞いた。
 欠けたパズルのピースが、ぱちんと音をたててはまったのだと、そう感じた。

湧き上がったのはなんだろうか。シャルロットの知らない言葉でも、きっといい表すことのできない、焦りのような、安堵のような、はたまたそのどちらも内包した得体のしれない衝動が、シャルロットを支配した。