なんて素敵な毎日なんだろう。ずっとこうしてご主人さまといたいと思った。
 ──本当に?
 どこかで問いかける声がする。それは、聞き覚えのない女性の声で──いいや、誰より聞きなれた女性の声だった。

 ふいに、ご主人さまが歌に歌詞をつけた。

「わすれないで、覚えていて……雨が降ったら、」

 そのあとが続かないようで、照れくさそうに苦笑したご主人さまを見上げると、ご主人さまは、ごまかすように「雨が降ったら、晴れになるんだ、シャロ」と言った。

 そうなんだ、と思った。ご主人さまは物知りだなあなんて思った。
 調子っぱずれの歌が雨と一緒に地面にしみこむようだ。

「──ああ、幸せ」

 ふいに、鈴のような女性の声がした。
 ……違う。その声は、シャロの口からでていた。
 シャロが瞬きをすると、シャロの肩からすとんと銀と茶の混じりあった毛が落ちる。毛むくじゃらの手は、白く透き通るような肌へと変わり、ガラスのテーブルにうつった自分の顔は、エメラルドグリーンの目をした少女のものへとかわっていた。

「本当に?」

 目の前のご主人さま──アルブレヒトが、静かに口にする。

「君は、ずっとここにいてもいい。それが君の幸せなら。シャロ」

 少し考えて、それはいけないことのような気がした。だから、いいえ、とシャルロットは答えた。