──夢を、見ていた。
黒い髪の丸い目をした少年が、シャロを抱きしめてくれる夢。
シャロは、この少年のことが大好きで、ぺろぺろと顔をなめるたびにくすぐったいと言われるのも好きで、暖かい腕の中にいることも好きだった。
「あ、雨だね、シャロ」
くうん、シャロはいやいやをするように、少年の懐に潜り込む。濡れるのは好きではなかったから。
「こらこら、鼻をひっかけちゃうよ。でも確かに、少し寒いね。そこの東屋に行こう」
そう言って、少年は鼻歌を歌いながら、遠くに見える東屋を目指した。アーモンドの木が植わる場所、小さく建てられたそこは、まるで秘密の家のようだ。
「きゃう」
「どうしたの?シャロ」
優しい眼差しがシャロを包む。──ご主人さま。甘えるように、シャロはもう一度鳴いた。
ご主人さま、ご主人さま。シャロは何度も鼻先をご主人さまの腕に摺り寄せた。
陽だまりのにおいがして、大好きなご主人さまから香るそれに、シャロはうっとりする。
行儀よく座ったご主人さまは、乳母のアンナが運んできた、みじんぎりの苺をつまんで、そっとシャロの口元に差し出した。
甘くて酸っぱい果汁がじゅわっとあふれる。シャロはおいしいことがうれしくて尻尾を振った。