あの日、クロヴィスに首を絞められ、それでも抵抗していたシャルロットは、生きることをあきらめていなかった。間に合わなかったのはアルブレヒトだ。
 どれだけ後悔し、どれだけ慟哭しても現実はかわらない。

「雨が、降ったら」

 アルブレヒトがつぶやいた言葉に、ヴィルヘルムは怪訝な顔をして、せめてアルブレヒトが楽になるようにと持ってきたクッションを椅子に押し込んだ。

「雨?……そういえば、ここ三日間、雨だな」

 そういうヴィルヘルムの目は赤い。ヒュントヘン家の愛すべき末娘、シャルロット。この雨は彼女を想って泣くものの涙なのだろうか。
 ならば、アルブレヒトの目から静かに零れ落ちる雫も、その雨の欠片なのかもしれない。

「雨が降ったら、晴れになるんだ」
「それ、オベイロン国の古い歌だったか。歌詞が少し違う?」
「歌詞を、忘れてな。こじつけで繋げたんだ。シャロによく歌っていた」
「だからシャルロットはあの歌だけ音痴なのか」

 はは、とヴィルヘルムが顔を覆って笑った。がらがらの声は、相変わらず涙で焼けている。

「大丈夫だよ、アル」

 ヴィルヘルムが、震える声で言った。