直系のヒュントヘン家は当然のように持ち、建国王の末裔たる王族は、その名の代わりに愛犬を持ち、王妃のように他国から嫁いできた以外で持つものはいない。ティーゼ侯爵家は、心から敬愛した主人に名づけられて初めてその名を得る。

 クロヴィスにミドルネームはない。もしかしたら、学園でアルブレヒトらを睨んでいたのは、それを妬ましく思っていたせいなのかもしれない。
 犬を憎悪するクロヴィスは、その実、自身こそ犬を神聖なものとみなしていたのだろうか。考えは進めど、歪んでしまった今では、想像することしかできない。

「アル、もう三日だぞ。休め」
「シャロが起きたらな」
「ッ、お前が死んだら、元も子もないだろ」

 アルブレヒトの握る、シャルロットの白い手には包帯がまかれていた。
 青白い顔は、その美しさも相まって人形のようだ。規則的に上下する胸だけが、彼女が生きている証だった。

 致死量の薬を飲まされ、ぎりぎりで一命をとりとめたシャルロットはしかし、それから三日間、ずっと眠ったままだった。
 一生目覚めないかもしれない。高名な医師は言う。

 それでも、寄り添っていけるならそれでよかった。シャルロットが死ねば、迷いなく命を絶とうと懐には短剣を忍ばせている。