その犯人であるクロヴィスは、今は王城に存在する地下牢に放り込まれていた。
片腕はなく、全身の骨が折れたクロヴィスは、それでもアルブレヒトとヴィルヘルムが現れると、這いずるように牢の端に逃げ、唾をまき散らして吠える。
──お前らのせいだ!ぼ、ぼくは優秀で、なのにお前らが全部かっさらっていく!僕は王族の血を引いているんだ!
──くそ、くそくそくそ!ここから出せよ!死ねよ!!王になるのは僕だ!
──いつもマルティナばかり!マルティーズだ?主人を得た栄誉を自慢したいのかよ!
ティーゼ騎士団長は、息子のこのような面に気づかなかったことを泣きながら詫びた。
母を早くに亡くしたからだとか、長男だからと自身がマルティナほど気にかけずにいたせいだとか、劣等感を植え付けてしまったのはそのせいだとか、そんな言い訳を一切せずに。
団長の座を辞す。命をお返しする。そう言ってきかぬティーゼ侯爵を押しとどめたのはアルブレヒトだ。
──まだ、この国にはあなたが必要だ。
そう言ったアルブレヒトに、彼はどう思ったのだろう。
ぐうとうなるように涙を押さえつけ、そうして熊のような顔をくしゃくしゃにして、は、と跪いた彼は。
この国において、ミドルネームというものは神聖なものだ。それが子犬姫の末裔であるという証だから。