さあさあと音がする。

 あのあと、アルブレヒトに追いついた騎士団やヴィルヘルムの手により、アルブレヒトとシャルロットは王城に運ばれた。

 シャルロットに使われたのは、一種の睡眠薬だった。酒と一緒に飲ませることで酩酊させ、その間に洗脳するというのがクロヴィスのとった手法らしかった。

 クロヴィスの手により洗脳されていた人々は保護され、今はアインヴォルフ王都の療養施設で治療を受けている。彼らの顔は、家出や駆け落ちとして処理された書類の特徴と一致した。

 だけれど、治療を受けても正気を取り戻すことができるかは、本人の体力と気力にかかっていた。

 現に、マルティナを瀕死の状態にまで追いやった二人は今も目を覚ませば自死しようとする。ならば、どうしてあの日屋敷にいた人々が、わずかにでも理性を取り戻したのか。
 わずかに言葉を話せるようになった、クロヴィスに失敗作として扱われた青年が言った。

 ──歌が、聞こえたんだ。
 ──忘れたくなかったことがあった、それを思い出して……。
 ──でもな、おかしいんだよ……それがなんだったのか、思い出せないんだ。
 ──ああでも、ほんとうに、ほんとうに、優しい歌だった。

 落ちくぼんだ目で涙を流し、医務官に語った青年は、少しずつ体から薬を抜く治療をしているらしい。
 まだ、おぼつかない言葉を話せる程度だが、彼が家族のもとに帰ることのできる日も遠くないだろう。