やめろ、と声がした。
 打撲音にかき消された悲鳴はしばらく響いていた。けれどやがて小さくなって、最後に重いものを引きずる音。それも遠ざかって少し。

 フゥー……。深く息を吐いたシャルロットに気づいて、アルブレヒトが目を見開く。

「シャロ……?」

 シャルロットは、なんだかとても眠たかった。
 閉じていくまぶたを止められない。だから、アルブレヒトの胸に頬をすり寄せた。いつか、幼いシャルロットがそうしたように。

「シャロ、息をしてくれ、頼むから」

 アルブレヒトの声が聞こえる。けれど、どうしても瞼が重くて、持ち上げることができないのだ。

「逝かないでくれ、シャロ、目を──……」

 ごめんね、すぐに起きるよ。だから少しだけ待っていて。
 シャルロットは沈んでいく思考の中でささやく。


 雨が晴れたら。その続きを思い出すことは、もう、できなかった。

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