「シャロ」
「こ、の、このこのこのこの!!駄犬!貴様の!貴様のせいで!」
アルブレヒトが視線を向けると、ヒィ、と腰を抜かす獣。
脆弱な、その姿はよくよく見ると人と似た形をしていた。
「ぼ、僕は、愛犬を持つんだ。そ、そしたらヒュントヘンもティーゼも目じゃない、ぼ、僕が王!王にな、なる!へは、へ、そ、そしたら、犬を皆殺しにして、僕を除け者にしたやつらを、へへ、あはは!」
「クロヴィス──黙れ」
ひくっと、クロヴィスと呼ばれた獣が顔をひきつらせる。
アルブレヒトの手に握られた抜き身の剣が、月光を反射して煌めく。
「お前の御託などどうでもいい。聞く価値すらない──シャロに、手を出したな」
アルブレヒトがシャルロットの顔をそっと撫でる。ぴりりとした痛みが走り、アルブレヒトの手を赤いものが汚した。
うまく声が出せなくて、シャルロットがひく、としやくり上げるような音を出したのを見て、アルブレヒトははっと息を呑んだ後、悔いるように顔を歪めた。
「クロヴィス──楽に死ねると思うな」
振り返り、煌煌と輝いた青い瞳がクロヴィスを射抜く。
それは、憎悪よりなお濃い、烈火のような感情に満ち満ちて。
「ひ!……で、でも、この屋敷にはまだ僕の犬がいるんだ、アルブレヒト、お前がしね、死ねよ!!──殺せ!!駄犬ども!!」
その声とともに、ゆらりと歩み寄ってくる人影がシャルロットのぼやけた視界に入る。
アルブレヒトが剣を構えた。