初夏の夜の、生ぬるい風が空の曇りを押し退け、そこにあった白光を遮るものがなくなった。
月の光を背に受けこちらを睥睨する黒い人影は、溢れる怒気を抑えることすら放棄し、シャルロットを押さえつける獣を見やる。
青い光がこちらを見つめ、冴え冴えとしたその色に鈍色の殺意を滲ませ、炯々と輝いているのをシャルロットは見た。
「あ……?」
獣が自分の腕のあった場所を見て不思議そうに首を傾げる──そうして。
「あ、あああああ!!!僕の、僕の腕、腕が、腕がァあ!!」
金属の擦れるような耳障りな音が、獣を中心に響き渡った。
金の髪が、肩口から吹き出した汚らしい赤に濡れる。シャルロットは、朦朧とした意識をなんとか繋ぎとめようとして息を吸った。
「か、は」
ひゅうひゅうと鳴る喉はうまく息を吸ってくれない。
アルブレヒトがシャルロットの元に駆け寄ると、獣は後ずさりながら悪態をついた。