それは突然のことだった。
 歌が聞こえたのだ。か細い声が、必死に紡ぐ歌。アルブレヒトははっとして、馬から降りて歌の聞こえるほうへ走る。

木々の間をくぐり抜け、茂みを踏み越え──そうして、花々によって巧妙に隠された、生け垣のようななにかを見つけた。

 アルブレヒトは迷わなかった。進む、進む、進む──。葉で顔が切れた。走りすぎて息が苦しい。それでも止まらない。その果てに、その光景はあった。

 開け放たれた扉。くすんだ金髪が、その下の淀んだ緑を囲って爛々と輝かせ、何かを押さえつけている。
 その下に見えるのは──銀に少しこげ茶の入った、幻想的な色合いのすべらかな髪で。

 アルブレヒトの中に存在する何か、人として必要な何か重いものが、音を立てて、切れた。

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