馬を駆り、アルブレヒトが西の森に到着したのはシャルロットが居なくなって幾ばくかが過ぎた頃だ。
ティーゼ領は王都に隣接している。だが、かといって広大な森を、たったひとつの邸を探すために走るのは非効率に過ぎた。
馬が木々の間を走り抜ける。身を低くしたアルブレヒトが視線を見回しても、それらしきものは見つからなかった。
焦燥感ばかりが募る。
シャルロットを救い出す。それだけのことすらできない自分が憎くてならなかった。
「シャロ、どこにいる──」
手がかりはなく、返事もない。辺りが暗くなってきて、焦りばかり先走り、アルブレヒトの五感を狂わせる。
ドッ、と音を立てて、馬が止まる。疲れゆえか、息が荒い。
アルブレヒトは、足元に咲いたチューリップや水仙といった花々を見下ろした。それらはこの国に自生しないもので、クロヴィスが集めているもの。
もう、ほんの近くのはずなのに──。
アルブレヒトが、もう一度シャルロットを呼ぶ。返事がこないことはわかりきっていた。それでも呼ばずにはおられなかった。
シャルロットの存在をなぞるように。
──わすれ、ないで。