シャルロットは、男を押し返すことをあきらめなかった。いいや、もう、意識なんてほとんどなかった。
 それでも──それでも、生きて、彼の隣にいることを、シャルロットは、もう、けしてあきらめなどしなかった。

 何のために、ひとになったのか。それは、単純な理由だった。
 見えないどこかへ手を伸ばす。朦朧とした意識の中、激高した獣がシャルロットに吠えて──首が絞められるような感覚がシャルロットを襲う。

 ここで死ねない。だからシャルロットは「生き汚い」と獣に罵倒される中、必死に息を吸いこもうとしてもがいた。
 
 ──ただ、一緒に居たかっただけなのだ。だって、シャルロットは──シャロは。

「アルブレヒト、さま。あなたを、愛しているの……」

 かすれた声が、空気を揺らす。熱いものが頬を濡らした。
 獣の絶叫が響きわたる。
 ──刹那、冴え冴えとした月光が、獣の腕を、跳ね飛ばした。

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