目を覚ましたシャルロットの視界を埋め尽くしたのは、一面の白百合。
 百合の花粉がシャルロットが纏う桃色のドレスを黄色く汚す。シャルロットは今にも叫びだしそうな自分を必死で押さえつけた。

 ここがどこかわからない、けれど、おぞましい部屋だということは理解できた。
 シャルロットは、一面に白百合の敷き詰められた部屋の中央──クッションを敷き詰めた椅子の肘あてに両腕を縛り付けられていた。

 むせかえるような百合の匂いに震えが走る。シャルロットは人だけれど、シャロの時に百合は危険だと何度も教えられていた。

「けほ、」

 背が軋む。逃げようともがくことを、このおびただしい百合の花が拒んでいる。
 シャルロットは、それでも腕に力を込めた。──その時。
 シャルロットの正面の扉。そのドアノブがくるりと回るのが見えた。扉が開く。

「ん?ああ、起きたのか、僕の忠実な愛犬」
「あなたの愛犬、ですって?」
 
 クロヴィスが、シャルロットの言葉を拾って、その通り、と唇をゆがめた。
 それを運んできたのだろう。瓶を掲げ、シャルロットに向かって何か紫色の汁の満ちたグラスを差し出し、クロヴィスは相変わらずにたにたと笑って見せた。

「飲みなよ。君ももう成人だろう?ワインというんだ。とてもおいしい」