はっと、誰かが息をのんだ。
 王の愛犬が亡くなって、アルブレヒトに執政権がうつるまで、実質的に国を回していた女傑──それこそ、この王妃だったと、思い出した。

 オリヴィア・オベイロン・アインヴォルフ。かつてオベイロン国からその頭脳を買われて嫁いできた、知略の姫君と呼ばれた王妃が、凛と背筋を伸ばしてすいと腕を振るう。

「時間稼ぎくらいやって見せます。──娘と息子を助けずして、何が親ですか」

 王妃が静かに、しかし、力強く口にする。
 ──アルブレヒトは、そんな母の姿に静かに礼をして、踵を返した。

 失敗も敗退も許されない。一度きりのチャンスを逃せば、シャルロットの無事は保証されない。だから──。
 必ず、救う。そう誓って。


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