マルティナが、絞り出すように口にする。ヴィルヘルムを押しとどめるように、つぶれた手を持ち上げた。ぜいぜいと音がする。
 ぐちゃぐちゃの人差し指が、窓の外を指し示す。方角は──西。

「お願い──たすけ、て」

 誰を、などと、言わなくてもわかる。文字通り、命を懸けてシャルロットを守ろうと血まじりの声を吐くマルティナを、ヴィルヘルムは歯を食いしばって見つめて──そうして、口を開く。

「わかった。……必ず、助ける。でも、お前も死ぬな、マルティナ」

 ヴィルヘルムがそう言うと、マルティナは少しだけほっとしたように息をして、目を閉じた。
 呼吸が怪しい。叫びだしそうなヴィルヘルムを押しとどめたのは、シャルロットの侍女──アデーレとアガーテだった。

「ヴィルヘルム様、どいてください」
「うごかさないで、頭をそうっとこちらに」

 アガーテが布を両手に抱え、マルティナの隣に膝をつく。
 アデーレが、その布を受け取って、マルティナの傷口を抑えた。

「大きな傷は、右腕。二の腕から止血して。腹に打撲……ひどいわね、氷を用意して」

 布の上から傷口をぎゅうと圧迫するアデーレは、ヴィルヘルムを見あげる。

「今すぐ!」